「救命救急から社会復帰まで」を、地域の仕組みにする
社会医療法人ペガサス/社会福祉法人 風の馬は、救命救急を起点に、回復期リハビリ、介護、在宅支援、そして就労支援までをつなぐ体制づくりに取り組んでいます。今回は、馬場記念病院の事務部長であり、両法人の理事も務める田中氏から、障害者雇用に注力する背景、医療・介護連携におけるデータ管理、そして今後の展望について伺いました。 Q1 ペガサスグループは、どのような起点から始...
社会医療法人ペガサス/社会福祉法人 風の馬は、救命救急を起点に、回復期リハビリ、介護、在宅支援、そして就労支援までをつなぐ体制づくりに取り組んでいます。今回は、馬場記念病院の事務部長であり、両法人の理事も務める田中氏から、障害者雇用に注力する背景、医療・介護連携におけるデータ管理、そして今後の展望について伺いました。
Q1 ペガサスグループは、どのような起点から始まったのでしょうか。
起点は、脳神経外科を専門とし、頭の病気や怪我に対して24時間手術ができる病院としての出発にあります。昭和52年に和泉市で開設し、60床規模でスタートしました。24時間体制で頭部の手術ができる病院は当時として珍しく、地域のニーズは大きかったといいます。
その後、拠点を広げながら、医療と福祉を合わせた体制へと広がっていきます。社会医療法人ペガサスと社会福祉法人 風の馬を合わせ、医療と福祉を展開する体制を「ペガサスグループ」として捉えています。
Q2 医療だけ、介護だけに留まらず、なぜ幅広い領域を担う形になったのでしょうか。
広げようとして広げたのではなく、必要があったから積み上がったという考え方に立っています。脳卒中や頭部外傷は、命が助かっても「きれいに治って終わる」ケースが少なく、片麻痺や言語障害など、生活に直結する後遺症が残ることが多いとされています。食事や移動、排泄など、これまで当たり前にできていたことができなくなる現実に直面し、本人からも「こんな体になるなら、あの時助けないでほしかった」という言葉が出ることがあります。
そこで必要になるのが、救命救急の「その後」を支える受け皿です。回復期のリハビリ、介護、在宅支援など、ステージごとに必要な支援が変わるからこそ、切れ目なくつないでいく体制が必要になります。命を救うことに加えて、その人が「生きててよかった」と思える時間を取り戻す支援までを一体で考える発想が、事業の広がりの根にあります。
.jpg)
Q3 障害者雇用に強い必要性を感じた背景は何ですか。
脳卒中は突然発症し、20代から起こり得ます。助かったとしても、仕事に戻れる人は極めて少なく、通勤自体が難しくなることも多いです。30代、40代で発症した場合、その後の人生のほうが長いにもかかわらず、社会参加の機会を失い、家で過ごす時間が増えてしまう現実があります。
そこで、介護サービスを利用する「支えられる側」に留まるのではなく、もう一度「稼ぐ側」へ戻ることを社会参加の形として捉え直しています。支援の目的は、単に雇用の枠をつくることではなく、本人がその人らしい生活を再構築するための選択肢を増やすことにあります。
Q4 就労支援の取り組みは、どのように運用されていますか。
就労継続支援B型作業所を運営し、元患者を中心とした就労の機会をつくっています。取り組みは10年ほど前から続き、現在は34名ほどが職員と共に働いています。杖を使う人や車椅子の人もおり、状態はさまざまですが、共通しているのは「働ける」「誰かの役に立てる」という実感が、生活の張りや生きる喜びにつながっている点です。

Q5 元患者が職場で活躍する事例として、印象的だったものはありますか。
20代の女性が、脳疾患の後遺症で右手が動かなくなり、美容師としての復帰が難しい状況になりました。家で回復を待つ時間が続くなかで、週3回から就労支援の場に通い始め、その後、病院で看護補助として働く選択をしました。
働く場所は、本人が最初に救急搬送された病棟でもありました。復帰を喜んだのは本人だけではありません。命を助ける現場にいた看護師にとって、助けた人が「働く仲間」として戻ってくることは、仕事の意味を強く実感できる出来事になります。本人の社会復帰は、支える側のやりがいや誇りにもつながっていきます。
Q6 医療・介護・在宅へまたがる中で、データや情報はどのように連携していますか。
医療分野では電子カルテ、介護分野では国が進める科学的介護情報システム「LIFE」を基本としています。そのうえで、事業所間の移行で情報が途切れないよう、法人独自に「ペガサス版 地域連携パス」を整備しています。
「連携パス」は、急性期から回復期、回復期から介護施設、介護施設から在宅サービスへという移行に合わせて、必要な情報をバトンのように引き継ぐための仕組みとして機能しています。情報量が多くなりがちなカルテ情報を、次の現場が使える形で整理し、スムーズな支援につなげていく発想です。
また、情報管理室にSEが在籍し、現場のニーズとシステム側の設計が一致するよう、話し合いながら内製・カスタマイズを進めています。

Q7 障害者雇用だけでなく、高齢者の「働きたい」にも取り組んでいると伺いました。
サービス付き高齢者向け住宅を複数運営し、さまざまな介護度の入居者が生活しています。介護保険には給付限度額があり、重度になるほど必要な支援が増えて限度額を超えるケースが出てきます。超過分は自己負担が大きくなるため、生活の安心を支える仕組みが必要になります。
そこで、限度額を超えた人を中心に「見守り」を組み込み、安否確認や移動の安全などを支える体制をつくっています。この「見守り隊」の担い手として、65歳以上の高齢者が参加しています。入居者と年齢が近いこともあり、会話が生まれやすく、関係性の中で支え合いが回る形になっています。
Q8 いま力を入れていること、そして学生・若手に伝えたいことは何ですか。
大きな取り組みの一つが、馬場記念病院の現地建て替えです。老朽化に対応しつつ、救急や手術の機能、病床数などのパフォーマンスを落とさずに、新しい病院へ移行していく計画を進めています。
同時に、地域に「ペガサスがあってよかった」と思ってもらうためには、職員が「ここで働いてよかった」と思える環境が欠かせないという考えがあります。医療・介護・福祉は職員の手からサービスが生まれるため、働く環境づくりそのものが提供価値の土台になります。
医療・介護業界には、自己犠牲やブラックというイメージが先行しやすいです。一方で、年間休日を増やす意識、育休取得の推進、認定制度の取得など、働き方の整備も進めています。給与が突出して高いわけではないとしても、頑張りが認められ、何より「お給料をもらいながら『ありがとう』と言ってもらえる」仕事であることを知ってほしい、というメッセージがあります。
若い世代への発信についても、SNSや学生視点の情報発信の可能性を広げていきたい意向があります。医療や介護は医師・看護師だけで成り立つのではなく、無資格でも担える仕事があり、若い力が必要な領域です。就職先の一つの選択肢として、業界をフラットに見てほしいという姿勢が貫かれています。
編集後記
救命救急の現場は「助けること」がゴールになりやすいです。しかし、助かった後に残る後遺症、失われる仕事、変わってしまう生活があります。そこで求められるのは、命を救った先の時間を、もう一度その人の人生として組み立て直す支援です。
ペガサスの取り組みは、医療・介護・在宅・就労を分けず、ステージの移行に合わせて支援がつながっていく設計になっている点に特徴があります。就労支援が本人のためであるだけでなく、支える側のやりがいにも還ってくる循環が、現場の言葉として残りました。
「救命救急から社会復帰まで」という言葉は、理念ではなく、地域で生き直すための仕組みとして実装されていました。そう感じさせる内容でした。
この記事を書いた人
SoraMedia編集部
他の記事
